サルビアの育てかた
 ──小休憩になると、真剣にダンス指導をしていたジャスティン先生の顔がたちまち穏やかなものへ変わっていく。先生のこの切り替えのギャップは、何年見ていても痺れる。

 こちらの存在に気づくと、先生は微笑みながら歩み寄ってきた。

「お待たせ! レイ、ヒルス。お疲れのところ、わざわざ来てもらって悪かったね」
「いえ、こちらこそ。お忙しいのにありがとうございます」

 その足で俺たちは事務室に連れられる。
 よく整頓された先生のデスクの上に、大きな箱がひとつだけ置かれていた。ニコニコしながらジャスティン先生はその箱を持ち上げ、レイに手渡す。

「レイちゃん、開けてごらん」

 そう言われるとレイは目を細めながら頷き、ゆっくりと箱を開封していく。

 父からの贈りものは、箱の中でまるで光を放っているかのように輝いていた。
 寒い季節なのにも関わらず、赤く咲き誇る美しい花──『サルビア』は、長い時間レイのことを待っていてくれたような明るい顔をしている。
 レイは父から届いた『サルビア』を見た瞬間、手の平を口に当てて顔を真っ赤に染めていた。

「お父さん……」

 ポツリと呟くレイは、花と共に届けられた手紙の存在に気付き、花柄の便箋を手に取る。
 日付を見てみると、父がアルツハイマーと診断される前に書かれたものだった。

 渋い文字で綴られた父からの手紙は、娘を想う愛で溢れていたんだ──
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