サルビアの育てかた
 だけど母は偉大だ。俺の心の中に引っかかり続ける絡まった糸を、いとも簡単に解いてしまった。
 あたたかみのある笑顔で、母は俺に優しい声で言う。

『深く考えすぎなくていいのよ。わたしもお父さんも、あなたとレイの幸せだけを願っているから。そのゆく先がどんな形であっても応援するわ』

 あの頃の俺には、母のその言葉の真意を受け止めることは決して出来なかった。
 でも……。

『レイの幸せが何なのか、ヒルス自身にとって何が一番なのか、いつか答えが見つかるといいわね』


 ──母が口にしたひとことひとことが印象的で、俺は決して忘れることはない。今なら素直にあの言葉を受け止められるんだ。
 
 それに父も、レイに宛てた手紙にこう綴っていたな。

『レイが好きになった人で大切にしてくれる人なら、たとえどんな相手でも応援するよ』

 ──父さん、母さん。俺、二人の言葉を真に受けるからな。正直に言うよ。世界中どこを探しても、レイのことをこんなにも想っているのは俺しかいないって。彼女を幸せに出来るのは俺だけなんだって、本気で思ってるからな。

 俺の気持ちを父と母に伝えようとしたが、目の前はいつの間にか真っ暗な世界になっていて、誰もいなくなっていた。
 そうだ、いつも忘れてしまうが、レイを思い出すと夢は終わるんだ。
 でも俺は寂しくなんかない。夢の中でも、また家族に会いに行けるから。
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