サルビアの育てかた
 ベッドの上で横になり、イヤホンを耳に当てて音楽を聴く。私が初めて個人大会で踊ったときの曲。世界的アーティスト・モラレスの格好いい歌声が耳の中をほんの少しだけ癒してくれる。
 本当は今でもダンスを続けたい。スクールにも通い続けたい。だけどもう、メイリーがいる場所には行きたくない。

 メンバーから心配しているってメッセージを何度も受け取ったけれど、一切返事はしなかった。今まで一緒に頑張ってきた仲間を裏切るような真似をして心苦しかった。だけど今の私には、全然気持ちに余裕がない。

 無心で音楽を聴き続けていると──ふと、部屋の中に誰かが入ってきた気配を感じる。ドアの方に目を向けると、そこにはヒルスが立っていた。
 驚いた私は、飛び起きながらイヤホンを外す。

「いきなり入ってこないで。ビックリするよ」
「ノックをしたのに反応がなかった」
「だったら尚更入らないでほしい。私だって、女の子なんだよ……」

 もしも私たちが本当の兄妹ではないのだとしたら。部屋に二人きりでいるこの状況に、居心地の悪さを感じてしまう。
 でもヒルスは、家に帰ってきたときいつもこうやって声をかけてくる。今の私にとってそれが負担なの。
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