サルビアの育てかた
──帰り道。車内はモラレスのバラード曲が小さい音量で流れていた。
俺とレイはいつも車の中で手を握り合っていた。しかし、今は決して彼女の指先を触れるようなことはしない。
彼女は、気にする様子もなく楽しそうに助手席で喋り続けている。
「年末のカウントダウンライブ楽しみだね。ヒルスもゲストとして同じステージで踊るからワクワクしちゃう! 帰ったらガーデンで一緒に練習しようね」
「……」
「あれ、ヒルス?」
「……ん? 何だ?」
赤信号で停車した時、俺は半分飛んでいた意識を取り戻す。レイが何か喋っていたのは分かるが、内容が全く入ってこなかった。
彼女の方を向くと、じっとこちらを見ている。
咄嗟にフロントガラスに目線を戻し、俺は小さく呟く。
「ごめん、聞いてなかった」
「そっか……私がずっと一人で喋りっぱなしで疲れちゃうよね」
「いや、そんなことないよ」
レイが嬉しそうに話をしていると、穏やかな気持ちになれるのに。だけど俺の心は今、完全に弱っている。
ひとつひとつのことをいちいち気にして勝手に落ち込んで、何事にも集中出来ない。特にレイと二人でいる時間は。
レイは両手を膝に載せている。か細い綺麗なその指に触れたい。ついこの間まで、お互いの手を重ね合うのが当たり前だったのに。
何度も何度もしつこい。矛盾と葛藤。
すぐ隣にレイはいるはずだ。だが、どんなに近くにいても俺の手の届かない所に彼女はいる。
俺とレイはいつも車の中で手を握り合っていた。しかし、今は決して彼女の指先を触れるようなことはしない。
彼女は、気にする様子もなく楽しそうに助手席で喋り続けている。
「年末のカウントダウンライブ楽しみだね。ヒルスもゲストとして同じステージで踊るからワクワクしちゃう! 帰ったらガーデンで一緒に練習しようね」
「……」
「あれ、ヒルス?」
「……ん? 何だ?」
赤信号で停車した時、俺は半分飛んでいた意識を取り戻す。レイが何か喋っていたのは分かるが、内容が全く入ってこなかった。
彼女の方を向くと、じっとこちらを見ている。
咄嗟にフロントガラスに目線を戻し、俺は小さく呟く。
「ごめん、聞いてなかった」
「そっか……私がずっと一人で喋りっぱなしで疲れちゃうよね」
「いや、そんなことないよ」
レイが嬉しそうに話をしていると、穏やかな気持ちになれるのに。だけど俺の心は今、完全に弱っている。
ひとつひとつのことをいちいち気にして勝手に落ち込んで、何事にも集中出来ない。特にレイと二人でいる時間は。
レイは両手を膝に載せている。か細い綺麗なその指に触れたい。ついこの間まで、お互いの手を重ね合うのが当たり前だったのに。
何度も何度もしつこい。矛盾と葛藤。
すぐ隣にレイはいるはずだ。だが、どんなに近くにいても俺の手の届かない所に彼女はいる。