サルビアの育てかた
 義理の兄妹という関係でなければ、こんな複雑な事態になっていなかったのだろうか。普通の恋人として付き合っていればよかったのだろうか。
 本来ならば、俺はプロポーズの準備でワクワクしていたはずだ。

 それなのに──今はもう、彼女とキスが出来ない。抱き締めるのも、手で触れ合うことすらも。何にも出来なくなってしまった。

(どうして俺は、レイの兄なんだろう)

 思ってはいけないことを、俺は平気で頭の中で考え込んでしまう。
 だけどこの問題は、たとえ俺たちが兄妹でなかったとしても、解決するのは簡単じゃないのかもしれない。

 彼女は俺に言ったんだ。「私は誰と一緒にいても、幸せにはなれない」と。
 一体、どうしてやればいいんだ。レイにとっての幸せって何なんだ……?

 どちらにしても、俺たちはこれからも義理の兄妹として生きていかなければならない。
 無言のため息を吐き、俺は脱力感に襲われながらシャワールームへ駆け込んだ。
 このやるせない気持ちを一人ぼっちで解消出来る唯一の空間。

 やめたい、やめたい。レイの兄という立場なんて嫌だ。そもそも俺は、一度たりとも彼女を妹として見たことはない。家族であるのには違いないが──妹だなんてどうしても思えない。

 俺とレイが別の形で出会っていれば良かったんだ。ダンスという趣味を通して愛を育んでいたら、ここまで大変な目に遭っていなかったかもしれない。

 もしもを想像したって無駄だ。分かっている。だけどそれほど、今の状況が辛かった。レイとこの先も義理の兄妹としての未来が待っているなんて、受け入れられない。

 ──マイナスな思考を駆け巡らせていると、急に父と母の顔が思い浮かんだ。

(今の俺を見たら父さんはきっと怒るし、母さんは呆れるだろうな)

 容易に想像出来る。ごめん、としか言いようがない。
 二人に無性に会いたくなってしまった。たくさんの愛情を注いでくれた優しい両親。レイのあの可愛らしい笑顔があるのは他の誰でもない、父と母のおかげだ。

 つい最近まで、レイの笑った顔を守れるのは自分だけだと思い込んでいた。だがそんなもの、ただの俺の勘違いだったみたいだ。
 父と母はいつもレイの幸せを願っていた。それすらも、俺の力では叶えてあげられないんだ。
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