サルビアの育てかた
 異常ともいえる彼女の行動に、俺は息を呑んだ。

「お、おい。レイ……」

 俺は強めの力でレイの肩を掴む。しかし彼女はこちらに目を向けることもせず、唸り続けながら自傷行為を止めようとしない。

 ──何をしているんだ。やめろよ。レイの手が血で真っ赤になってしまっているのに。

「……そこまでだ」
「……」
「レイ」
「……」
「聞いているのか、もうやめろよ!」

 俺は勢い余って彼女の腕を掴み取り、思いきり抱き寄せた。とんでもないほど震えているのが伝わって来る。

 この瞬間、レイの体から鉄のような匂いが漂ってきた。どうして彼女がこんなことをしているのか、少しも理解が出来ない。気が動転してしまい、こんな行動に恐怖すら覚えた。

「……ヒルス……」
「何だよ」
「放して」
「それは、出来ない」

 出来るわけがない。レイがこんなにも傷ついているのに。彼女を解放するなんてこと、俺が許すはずもないだろう!

 しばらくの間、室内が静寂に包まれた。何分、何十分過ぎたのかも分からない。もしかすると、一分も経っていないかもしれない。
 時間の流れなんてどうでも良かった。俺は口を開くこともせず、ただただ胸の中で小刻みに震えるレイを体全体で包み込むだけ。そうすることしか出来ないから。
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