サルビアの育てかた
レイの身体が弱っているのが伝わってきた。俺の胸の中でうずくまる彼女は、暗い声でポツリと呟いた。
「悪魔がいたの」
「……え?」
「この前、部屋の窓から外を眺めていたの。そしたら……フラットの目の前にある公園に、あの悪魔が立ってたんだよ。嘘だと思いたかった。でも、たしかに、あの女がじっとこっちを眺めていたの」
「……!」
まさか、そんな。あの女の存在を、レイは気づいてしまっていたのか。
今度は俺の腕が小さく震え始める。
「怖いの。私とこれ以上一緒にいたら、ヒルスも何をされるか分からない。だから、私とずっと一緒にいない方がいい」
「待て、どうしてそうなる……俺は怖くない。レイを守る為なら何でもする。レイがいなくなる方が怖い!」
俺は、俺の想いをしっかりと伝えたはずだった。
じっとこちらを見つめるレイの瞳に、まるで生気がない。今の彼女には、自傷した血の痕だけが際立ってしまい、惨い現実の色で染められている。
そんなレイは、低い声でこんなことを言い放つんだ。
「……何も知らないくせに」
「えっ?」
「ヒルスには私の気持ちなんて分からない」
「……レイ」
「だってそうでしょう? ヒルスのお父さんとお母さんはとっても優しくて素敵な人たちだよ。ヒルスは本当の家族だもん。どんなに綺麗事を並べたって、私一人だけ血縁関係のない娘だから。……所詮、私の【本当の親】はあの悪魔なんだよ!」
「……はっ?」
信じられない言葉に、俺の心臓が止まりそうになる。
(【本当の親】って何だよ。レイは正気か? 自分で何を言っているのか、分かっているのか?)
俺の中で、太い糸がぷつんとちぎれる音が激しく鳴り響いた。全身も燃えるように熱くなる。