サルビアの育てかた
 ただひたすら無心でバイクを走らせる。こんな寒い時期にコートだけを羽織って夜道を走行するなんて、どこまで俺は馬鹿なのか。冷たい風に晒される身体が、今にも凍えそうになっていた。
 とにかく逃げ出したい。
 俺は静けさに支配された夜の住宅街を無我夢中で駆け巡る。
 レイのあんな姿、見たくなかった。自分自身を傷つけてしまう行動も、彼女があんなに悩んでいたことに気付けなかった俺自身にも腹が立つ。ショッキングな光景が頭の中に焼き付いたままだ。

 長時間バイクで走っていると、心の奥までも凍りつきそうになった。無意識のうちに、運転が荒くなってしまう。
 だんだん都会の雰囲気へと景色が変わっていった。やがて行き着いた場所は──ロンドン市内のテムズ川沿いの遊歩道。レイと手を繋ぎながら歩いた場所だ。
 大きな観覧車のイルミネーションが俺の目を刺激する。以前、彼女があの巨大観覧車に乗りたいと言って寄り添いながら二人で景色を楽しんだ。
 あの時は──この夜景が俺の瞳にはキラキラと輝いていて、とても美しく映っていたはずなのに。今は同じ景色がまるで嘘のように、白黒にしか感じられない。
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