サルビアの育てかた
 冷えていく体を抱きしめながら震えている時。ふと胸の中に何かの重みを感じる。

(そうだ、指輪)

 内ポケットに手を入れ、彼女に贈ろうとしていたものを乱暴に取り出した。
 小さな箱が、寂しそうに俺の手の中に包まれている。何となく、中を開けてみた。
 夕焼け色の街灯に照らされながら顔を出したのは、一粒の小さなピンクダイヤを着飾った婚約指輪。石言葉は『永遠の愛』だそうだ。

 反吐が出る。何が永遠の愛、だ。
 
 俺はどこまで馬鹿な奴なんだろう。兄妹で婚約だなんておかしい。永遠の愛を誓おうとしていたなんて狂っているのか?

(自分の立場をわきまえろ。俺は、レイと出会ったあの日から彼女の兄になったんだ。それ以上でも、それ以下でもない)

 自分にそう言い聞かせるほど、真っ黒に染まった虚しさが俺の胸の中を蝕んでいった。

 こんなもの、もう必要ない。

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