サルビアの育てかた
 レイは、あの悪魔のせいで自分を見失っている。どんなに言葉で伝えたって、彼女が立ち直るには相当な時間が必要かもしれない。
 だけど──レイの育ての親は父と母だけだ。愛情をたくさん注いで彼女を大切に育てていた、今は亡き両親。
 それだけはレイにも思い出して欲しい。だからレイの【本当の母親】云々の言葉は、俺にとってどうしても聞き捨てならなかった。

(きっとレイだって、本心で言った訳じゃないはずだ。ちゃんと面と向かって話をしよう)

 悪魔のことは絶対にどうにかしてみせる。根拠など何もないが、自信はあるんだ。

 あの悪魔、今度また俺たちの前に現れたら追い払ってやる。
 それくらいの意気込みだけは今の俺にはある。恐れている場合じゃない。
 家に帰ったらすぐにでも彼女を抱き締めたい。氷のように冷たくなってしまった俺を癒やしてくれるのは他の誰でもない、レイだけだ。
 俺があれこれ考えていると、フラットが遠目で見える距離まで行き着いていた。
 どんなに寒くても関係ない。バイクの速度を上げて風を振り切った。

 敷地内の駐輪場に着くなりバイクのエンジンをさっさと切り、ヘルメットを片付ける。速歩きでエレベーターへ向かった。その間も、俺はレイのことで頭がいっぱい。
 彼女がもう一度俺を受け入れてくれたら仲直りのハグもしたいし、キスもしたい。レイと肌をたくさん重ねたいしそれに──プロポーズもちゃんとしたい。
 何よりも彼女との日常を取り戻したかった。二人で食事をしながら他愛ない会話をたくさんして、年末のステージでのダンス練習もしなくちゃいけない。レイと一緒に踊ることは俺にとってとても大切な時間だ。
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