サルビアの育てかた
 ──夜が更けた。もうみんな寝静まった頃かな、なんて思っていた。
 喉が渇き、水でも飲もうと部屋のドアをそっと開ける。足音を立てないように階段を下りて、ゆっくりとキッチンへ向かっていると、リビングの灯りが点いていることに気づいた。

 まだ誰かが起きてる。私の足は、反射的にリビングの手前で止まってしまう。
 咄嗟に息を殺すと、三人が何か話しているのが聞こえてきた。

「……ヒルス」

 最初に聞こえてきたのは、どこか困ったような母の声。

「レイのことはそっとしておいてあげてね」
「でも、あいつの態度なんなんだよ」

 ヒルスの口調は明らかに呆れているようだった。
 当たり前だよね……。
 私は三人に気づかれないよう注意をしながらも、深いため息を吐いてしまう。

「レイも難しい年頃だから、そっと見守るしかない。少し行き過ぎた反抗期だろうからな……」

 最後に聞こえてきた父の声は、とても寂しそう。
 私は最近、あからさまに家族を避けるようになったから。会話もろくにしないし、夕食だってわざと一緒に食べないようにしている。自分の中のモヤモヤが残り続ける限り、以前のように家族と笑い合って過ごすことができなくなってしまった。
 ドアの隙間から漏れる灯りが、私の影を小さく形作る。なんだかその姿さえも寂しそう。
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