サルビアの育てかた
 エントランスから公園までは、一度建物の反対側までの道を辿らなければならない。いつもはそう遠く感じない距離も、こういう時だけ長い気がしてしまう。全力で走っているのに、息が上がって足が上手く動いてくれないからなのか。
 普段から、夜の十時を過ぎるとここの周辺はたちまちひと気が少なくなる。今日は一段と静寂に覆われていて、雰囲気が不気味だ。俺の吐息だけが風に乗って消えていく。

(レイ、どうか……どうか、何事もなく無事でいてくれ)

 もしかすると、焦っているのは俺だけかもしれない。今頃レイは、公園で一人ベンチに座りながら俺が来るのを待っているかもしれない。
「さっきのは全部嘘だよ」なんて笑って、俺を怒らせるつもりなんだ。

 望むところだ。こんなに心配かけておいて、俺をからかうような真似をしたら遠慮なく怒鳴りつけるぞ。その後に苦しくなるほど強く強く抱き締めてやる。

 どんなに俺が逃避するような考えを巡らせていても、身体だけは分かっていた。さっきから変な汗が止まらないし、手足も固くなっていつもより走る速度がありえないほどに遅い。心臓も爆音で唸っていた。肺に負担が掛かりそうになるほど息が上がり続ける。
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