サルビアの育てかた
「レイ、大丈夫か……?」

 普通にレイと会話をしようとしただけなのに。なぜか俺の呼吸は乱れていき、全身から汗がたくさん流れていった。
 急激に、腰の辺りがカッと熱くなる。この感覚は、一体、何なんだろう。

「ヒルス……どうして。どうしてこんなこと……!」

 なぜだかレイは涙をたくさん浮かべていた。彼女の悲しみの雫が何粒も俺の頬に落ちてくる。
 そんな折、背後から悪魔が叫ぶ声が聞こえてきた。

「アハハハ……馬鹿な男! 愚か、惨めよ! 自分から来るなんて……! アタシは悪くない……何にも悪くない……お前が勝手に……自分から飛び出してきたんだから……アハハハ……!」

 何だこいつ。一体、何を言っているんだ。甲高い声で笑うな。煩い。

 そう言ってやりたかったのに、おかしい。やっぱり声が上手く出せない。
 全身の力が抜けていく感覚さえある。

 俺が身動きも取れずにレイの腕に支えられながら倒れ込んでいると、悪魔が公園の出口に走り去っていくのが横目に映った。

 ──何だ、あの女。逃げるつもりか。ふざけるな。戻ってきやがれ!

 目の前が、だんだんとぼやけてきた。
 そんな中でレイは、震えながら溢れる冷たい雫をいつまでも止められない様子だった。

「ヒルス……ヒルス……!」

 悲痛な叫び声で俺を呼ぶレイ。
 俺の手足の先が、氷のようになっていく。だけど、腰周りだけは異常なほど熱くて痛くてたまらない。何かの液体が滴り落ちる音も響いてきた。
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