サルビアの育てかた
「……なぁ。レイ。どうして泣いてるの」
「……どうしてって、だってヒルス……!」
「笑ってよ……レイの笑ってる顔が見たいよ……」

 彼女は大きく首を横に振ってギュッと俺の身体を抱き寄せた。

「笑えるわけない。こんな時に……! お願い。ヒルス……しなないで……!」

 レイのぬくもりが伝わってこない。彼女が強く俺を抱擁してくれているのに。恐れや切なさ、悲しみ、混乱などの負の感情ばかりしか感じられないんだ。

(俺は、しなないよ。レイ、何言ってるの)

 そう思っていても、瞼が次第に重くなっていく。レイの声までもが遠のいていった。
 汗が流れる俺の背中から、どくどくと唸る。すぐ隣に咲いている白い花たちが、どういうわけかどす黒く赤色に変わっていた。

 もう力が入らない。レイの頬を撫でることも、彼女の名前を優しく呼んであげることすら出来ない。

 参ったな。せめてもう一度、君に言いたかった。
『大好きだよ』。その一言すら、声に出して愛する人に伝えられないんだ。

(ああそうか。俺、あの悪魔に刺されたのか……)

 目の前が真っ暗になり、やがて何も感じなくなっていった──
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