サルビアの育てかた


「──ヒルス」
「…………」
「ヒルス! 起きなさい」

 強い口調で俺に話しかけてくる人がいる。

 ゆっくりと目を開けると、俺はベッドで横になっていた。すぐ隣には、両手を腰に当てながらこちらを見下ろす母の姿。何だか怒っているようだ。

「早く準備しないとスクールに遅刻するわよ」
(……スクール? ダンススクールのことか?)

 イライラしている様子の母を前にして、俺は仕方がなく起き上がる。周りを見て、瞬時に思い出した。

 俺の部屋だ。
 大会のトロフィーや賞状、本棚などがそのままの形で置かれていて、確かに実家で暮らしていた頃と同じ風景が広がっている。

「顔洗ってきなさい。朝ご飯できてるわよ」
「ああ……」

 どうやら俺は、夢を見ている。
 天国で暮らしているはずの母が当たり前のように目の前にいて、なくなったはずの実家で目覚めたのだから。

 食卓へ行くと、スーツ姿の父が新聞を読みながら紅茶を飲んでいた。病気になる前、なのだろうか。話しかけてみよう。

「父さん、おはよう」
「ああ」
「今から仕事か?」
「そうだ。ほら、ヒルスも遅刻しないように早く食べなさい」

 そう言って父は、俺を椅子に座るよう促す。表情を見る限り、病気が発症される前の様子だ。
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