サルビアの育てかた
※
ある日のスクール終わり。
俺は一人、練習場の鏡の前で呆然と立ち尽くしていた。
いつもなら月二回あるスクールでの仕事が終わればすぐに帰り支度を済ませ、レイが着替え終わるのをエントランスで待っている。
それなのに──もう、二度とあいつをバイクの後ろに乗せてスクール後に実家へ帰ることはなくなった。
そう考えると、強烈な虚しさに襲われる。
「ヒルス」
不意に背後から声を掛けられる。
──メイリーだ。腰に手を当ながらこちらを眺める姿が鏡に映る。
「まだ帰らないの?」
「ああ。いや。そろそろ帰るよ」
ダメだ、全然覇気のない返事になってしまった。俺らしくない。
「レイ、辞めちゃったんだね」
「まあな。ちょうど、そのことを考えていた」
「……寂しいの?」
「まさか」
俺は焦って首を大きく横に振った。
──そう。俺の説得も虚しく、結局レイはダンススクールを辞めてしまったんだ。理由を教えてくれることもなく、なぜか距離も取られている。連絡をしても、実家に帰ったときでさえも、彼女には無視されてしまう。
肩をすくめ、俺は重い口を開いた。
「あれだけダンスを楽しんで、本気で取り組んできたのに。どうして突然辞めていったのか全然分からなくてな。残念で仕方がない」
「そっかあ。ヒルス、知らないんだね」
「メイリーはあいつから何か聞いているか?」
俺が振り向くと、メイリーはどこか遠くの方を見やっていた。それから小さく首を振る。
「あたしも……よく分かんない」
期待外れの返答だった。
何をしたって、今のレイが素直に理由を教えてくれるとは到底思えない。
「──僕も、すっごく残念だよ!」
暗い気持ちになっていると、練習場に今度はジャスティン先生がやってきた。
「ついこの前まで、レイは今年の大会にもエントリーしたいと言っていたんだよ。相当な努力をしてきたはずなのに……」
声を震わせながら先生は頭を抱える。レイがいつか個人大会で優勝する日を願っていたから、相当悔しいのだろう。
先生の前に立つと、メイリーは明るい声で言った。
「でも本人が辞めたいって言っているんだから、もう仕方のないことですよ。これからの大会は、レイの分まで……ううん、それ以上にあたしが頑張ります! イベントでのセンターやソロも任せてくださいね!」
「そうだねぇ……。うん、君にも期待しているよ」
先生はそう言うが、表情からして空元気のようだった。
俺も同じだ。
レイがスクールを辞めてしまったのがどうしても納得できずにいる。残念で悔しくて、居たたまれなくなって、心が沈んで。こんな気持ちをどこにもぶつけられず、どうしようもなかった。
ある日のスクール終わり。
俺は一人、練習場の鏡の前で呆然と立ち尽くしていた。
いつもなら月二回あるスクールでの仕事が終わればすぐに帰り支度を済ませ、レイが着替え終わるのをエントランスで待っている。
それなのに──もう、二度とあいつをバイクの後ろに乗せてスクール後に実家へ帰ることはなくなった。
そう考えると、強烈な虚しさに襲われる。
「ヒルス」
不意に背後から声を掛けられる。
──メイリーだ。腰に手を当ながらこちらを眺める姿が鏡に映る。
「まだ帰らないの?」
「ああ。いや。そろそろ帰るよ」
ダメだ、全然覇気のない返事になってしまった。俺らしくない。
「レイ、辞めちゃったんだね」
「まあな。ちょうど、そのことを考えていた」
「……寂しいの?」
「まさか」
俺は焦って首を大きく横に振った。
──そう。俺の説得も虚しく、結局レイはダンススクールを辞めてしまったんだ。理由を教えてくれることもなく、なぜか距離も取られている。連絡をしても、実家に帰ったときでさえも、彼女には無視されてしまう。
肩をすくめ、俺は重い口を開いた。
「あれだけダンスを楽しんで、本気で取り組んできたのに。どうして突然辞めていったのか全然分からなくてな。残念で仕方がない」
「そっかあ。ヒルス、知らないんだね」
「メイリーはあいつから何か聞いているか?」
俺が振り向くと、メイリーはどこか遠くの方を見やっていた。それから小さく首を振る。
「あたしも……よく分かんない」
期待外れの返答だった。
何をしたって、今のレイが素直に理由を教えてくれるとは到底思えない。
「──僕も、すっごく残念だよ!」
暗い気持ちになっていると、練習場に今度はジャスティン先生がやってきた。
「ついこの前まで、レイは今年の大会にもエントリーしたいと言っていたんだよ。相当な努力をしてきたはずなのに……」
声を震わせながら先生は頭を抱える。レイがいつか個人大会で優勝する日を願っていたから、相当悔しいのだろう。
先生の前に立つと、メイリーは明るい声で言った。
「でも本人が辞めたいって言っているんだから、もう仕方のないことですよ。これからの大会は、レイの分まで……ううん、それ以上にあたしが頑張ります! イベントでのセンターやソロも任せてくださいね!」
「そうだねぇ……。うん、君にも期待しているよ」
先生はそう言うが、表情からして空元気のようだった。
俺も同じだ。
レイがスクールを辞めてしまったのがどうしても納得できずにいる。残念で悔しくて、居たたまれなくなって、心が沈んで。こんな気持ちをどこにもぶつけられず、どうしようもなかった。