サルビアの育てかた


 暗い気持ちのまま、俺はその後一人で帰路についた。

 夜の田舎道。俺が乗るバイクのエンジン音のみが鳴り響く。
 いつも感じていたはずの彼女のぬくもりはない。
 当たり前に後ろに乗っていたレイ。振り返ったとしても、その笑顔を見ることすらできないんだ。

 ハニーストーンの家々を照らすオレンジ色の淡い灯りが、俺の目には滲んで映ってしまう。


「おかえりなさい」

 実家に着くと、母が出迎えてくれた。
 ダイニングのテーブルには一人分のスープとシェパーズパイが静かに俺の帰りを待っていた。パイから漂うマッシュポテトとひき肉の香りが食欲をそそる。

 けれど気持ちは沈んだまま。
 レイが隣にいないディナーは、寂しい空間に変わってしまう。

「母さん、レイは?」
「ついさっき帰ってきたわ。ごはんは少ししか食べてくれなくて、今はお部屋に篭もってる」
「相変わらずだな……」

 俺はあたたかいスープを一口飲んでから呟いた。

「どうしてあいつはダンススクールを辞めたんだろうな」
「詳しいことは分からないわ。でも……あの子、急にお金がどうとか言い始めて」
「は?」
「スクールの月謝がかかるからとか言うのよ。わたしもお父さんもそんなの全然気にしてないから、続けてほしいと伝えたんだけどね。でも、あの子ったらまた怒っちゃって。『私のために無駄な気遣いしないで。もうスクールには行かないから!』って……」
「なんだそれ」

 わけが分からなかった。そんな理由であいつがスクールを辞めるはずがない。
 父も母もレイが踊るのをいつも応援していた。
 急にお金のことを気にしたりするのは違和感がある。
 本当の理由は他にあるに違いない。でも、今の俺にはそれがなんなのか見当もつかなかった。   
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