サルビアの育てかた
 無心で歩みを進めていくと、いつの間にか俺は孤児院の教会の中に立っていた。
 古い建物でありながらも、よく磨かれた木の長椅子がいくつも並べられていて、建物の奥には大きな祭壇が静かに灯されている。ステンドグラスから差し込む太陽の光が、教会内をあたたかく包み込んでいた。淡く神聖で、心が落ち着く。そんな癒やしの空間。

 ふと祭壇の真下に目を向けると、一人の女の子が座り込んでいる姿が目に映る。ゆっくり近づいていき、後ろ姿だけでそれが誰なのか分かった。
 俺はこの時初めて、彼女の名を夢の中で呼ぶ。

「……レイ」

 彼女は、ゆっくりとこちらを振り向いた。
 十歳くらいか。たしかに顔は彼女に違いないが──雰囲気が全くと言っていいほど違った。

「お兄さん、誰?」

 低い声を出す彼女は無表情で、少しばかり虚ろな目をしている。
 俺はさりげなくレイの隣に腰掛けた。

「俺は、君の兄だよ」
「私に兄なんていない」
「この世界ではそうかもしれないな」

 彼女は祭壇を眺める。その横顔から、寂しい雰囲気が漂ってきた。

「レイはこんな所で何をしているんだ?」
「何もしてないよ」
「どうしてこんな所にいるの」
「私にはお家がないから」

 無機質な声で、彼女ははっきりとそう答えた。
 俺はハッとする。

 ──家が、ない?

 それは、里親がまだ見つかっていないということか。俺はよく分からない胸の苦しみを感じた。
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