サルビアの育てかた
 たまらず彼女の黒い髪の毛に手を伸ばし、そっと触れてみる。いつもなら優しく撫でてあげると、ほんのりと頬を赤らめて微笑んでくれるのに。
 目の前にいる彼女は全くの無反応だった。

(そうだ。レイの愛くるしいあの笑顔を生み出してくれたのは、父さんと母さんなんだ)

 二人に出会っていない彼女の心は【無】に支配されたまま。笑うことはないし、感情も皆無に等しい。
 本当のレイは幼い頃からよく笑い、よく泣き、喜ぶと両手を上げて嬉しさを表現し、怒る時は鬱陶しいほどに騒いでいたはず。今、目の前にいる彼女はまるで別人だ。

 締め付けられる胸の痛みが収まらない。堪らず俺は、彼女を強く抱き締めた。
 あたたかさも優しさも、何も伝わってこない。その代わりに、彼女の心に埋められる『孤独』の文字が俺の中にまで響いてくるんだ。
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