サルビアの育てかた
 レイはそっと俺の手を握り締めると、何も言わずに歩き始める。彼女に引っ張られ俺も立ち上がって付いていくと、その瞬間に周りの背景が真っ黒になってしまった。
 闇に包まれた道なき道をしばらく進んでいくと、彼女は突然立ち止まる。それから俺の手をそっと解き、こちらを見上げた。

「私がいない世界だったら、ヒルスの未来は明るいはずだったの」

 しつこくそんな風に言う彼女に対し、俺は断固として頷きはしない。
 なぜそこまで自分の存在を否定するのか理解出来ない。

 気がつくと、俺たちは孤児院の門の前に立っていた。
 真夜中だろうか。辺りは妙に静まり返っていて、周囲には誰もいない。建物の灯りは消えており、大粒の雪が絶え間なく振り続けている。何とも寂しい雰囲気が漂う。
 気温なんて体感では分からないはずなのに、景色を見ているだけで俺の身体は小さく震え始めた。
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