サルビアの育てかた
 彼女の叫び声が、赤子の泣き声に交じって絶えず響き渡る。それはあまりにも悲痛に満ちていて。聞いているだけで鼓膜が破れそうになる。
 俺は思わず耳を塞いでしまった。

(嫌だ……聞きたくない)

 暗闇の中でうずくまり、両目をギュッと瞑る。

(泣き叫びながら俺の名を呼ばないでくれ)

 もしもそっちの世界へ戻ったら、また悲しい想いをするんだろう? 俺もレイも、きっとこれ以上は耐えられない。

 家族になんて、義理の兄妹にならなければよかった。全く関係ない間柄でふとした時に君と出会っていれば、また違う未来が待っていたのかもしれない。だけどもう、遅すぎるんだ。

 俺は震えながら、その場から動くことが出来なくなってしまった。
 あとどれくらい。どれくらいこの悲痛の叫びを聞いていればいい? 苦しみの絶叫は、何もない世界で耳の中を絶え間なく攻撃してくる。
 どんなに名前を呼ばれたって、立ち向かっていく勇気がない。君を抱き上げるのが、どうしても怖いから。

 ごめん。ごめんな、レイ……。俺は臆病だ。いつも君を想うと小心者になってしまう。考えすぎて、胸が苦しくなってどうしようもなくなる。このままだときっと壊れてしまう。だから、君から逃げるしかないんだ。最低な兄で、悪かったよ。
 ここに留まって、現実から目を逸らすのが一番いいと俺の心が喚いている。
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