サルビアの育てかた
 息が苦しくなってきた。跪き、必死に息を吸おうとするがなぜか上手くいかない。
 腰の辺りに強烈な激痛がした。それと同時に、急激な熱さに襲われる。

「……っ!」

 声にならないほどの刺激に、俺は歯を食い縛った。

 この痛みは……。
 あの時の衝撃が、脳裏に浮かんだ。

 悪魔がレイに飛びかかった際、俺は彼女を守ろうと無我夢中で身体を走らせた。俺と悪魔の力が衝突した瞬間、鋭利のものが腰回りに突き刺さり、まるで肉をえぐられるような感覚に陥ったんだ。だけど俺が倒れた折に刃物は強い力で引き抜かれ、それから体内から漏れる真っ赤な液体を止めることが出来なくなってしまった。
 体液が滴る音が響く度、物凄い動悸とショックで何も感じなくなったんだ。

 ──その痛みは、現実へ戻ろうとすればするほど確実に大きくなっていく。
 苦しい。熱い。背中が痺れるような感覚さえある。
 だが俺は、こんなことでもがいている場合じゃない。何があっても必ず帰ると決めたのだから。

 今にも消えそうな赤子のレイをもう一度抱き締め、俺は悶えながらも再び立ち上がる。

「レイ、どんなに痛くても俺は平気だ。道を教えて」「聞こえたら返事をしてくれ」「レイ、諦めないから。絶対に俺は諦めない!」

 息が途切れそうなほどに連続して声を上げた。
 それでも、闇の世界が俺の足元を覆い始める。足が重くなり、前に進むだけでも息が薄れていく。

「レイ……レイ!」

 負けるな。大好きな彼女をただひたすら、求め続けるんだ。

 俺の両足と両手、下半身全てが闇に覆われた頃。
 突然、俺の胸の辺りが眩しく光り輝いた。自分の胸元に目線を落とすと──十字架のネックレスが、俺の周りをキラキラと金色に照らしていた。
 俺の身体にまとわりついていた闇の世界は光に吸収されていく。

『……ヒルス……』

 すぐ耳元で、しかしどこか遠くの方で俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
 ハッとして立ち止まる。

「レイ……?」
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