サルビアの育てかた
 もうこれ以上叫ぶと喉がなくなるのではないかというほどに、力を振り絞って愛しい人の名を呼んだ。

「レイ。レイ、レイ! 俺がどこにいるか分かるか?」

 必死だった。俺は再び歩み始める。歩けば歩くほど目の前は真っ白になり、光の世界へと溶け込んでいった。

『──ヒルス、こっちだよ』

 確かに聞こえた。やっと見つけられた。愛しい人がいる場所を!
 ここは背景なんて概念すらなく、地面も空も見当たらない空白の場所。
 だけど俺には分かる。このまま真っ直ぐに行けば、彼女に会えると。確信していた。

『ヒルス……こっちだよ。転ばないように、気をつけて』

 レイの透き通った声を聞いて、俺の瞳の奥が少しばかり滲み始める。
 前方の方に、手招きをする人影が見えた。胸の辺りが金色に輝いているのが分かる。

 彼女だ……レイだ!

 身体がどんなに悲鳴を上げていても、今の俺には何のダメージもない。一歩一歩大きな歩みで、必死になって彼女の影を追う。その間にも、レイの影は俺の方を見て柔らかい表情を向けているのが分かった。

 そうして、どうにか彼女の目の前まで辿り着いた。俺はふと腕の中に視線を落とす。
 すると、赤子のレイが幸せそうに笑っていた。まるで天使のような愛らしい表情を浮かべていたんだ。
 美しく輝くその姿は、俺の腕の中に包まれたままゆっくりゆっくりと消え去っていった。
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