サルビアの育てかた
終章
 ──体が妙に熱い。全身に汗が染み付いているようだ。
 肌に伝わる温度や感触、微かに聞こえてくる空気の音が耳の中を刺激する。
 
(さあ、目を覚ませ……帰って来れたんだろ?)

 ゆっくりと、瞼の中に潜む暗い世界から視界を解放しようとする。

 いち、に、さん。

 力の限り、目を開けた。今、自分が一体どこにいるのか、働かない頭でどうにか認識しようとする。目の前には、見知らぬ空間が広がっていた。
 何の変哲もない天井が視界に入る。家のものじゃない。
 寝心地があまり良いとは言えない固いベッドで、俺は横たわっていた。その周りを青いカーテンが囲んでいる。

 この殺風景を目にして、俺は何となく察した。どうやらここは、病室らしい。
 静かな空間の中で頭はぼんやりしたままだ。

(朝か?)

 眩しい陽の光が窓から差し込む。小鳥のさえずりが遠くの方で聞こえてくる。

(何だか身体が重いな……)

 起き上がろうとしても力が入らない。しかも、腰の辺りからよく分からない感覚が伝わってきた。気持ち悪いような、冷たいような。決して心地良いものではない。
 顔は動かせるようなので、俺はふとベッドの横に目線を移した。

「……あ」

 掠れた声が漏れた。
 椅子に腰掛け、俺のすぐ横で吐息を立てながら眠るレイがいたからだ。
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