サルビアの育てかた
 そんな所で寝ていて、辛くないのか? 風邪引くぞ。

 そう言いたかったが、上手く声が出せない。
 どうにか弱った右手を動かし、彼女の方に腕を伸ばす。まるで重りでも付けたかのような俺の手は、大きく震えながらも彼女のぬくもりを求めた。

「……レ、イ」

 すぐそばに、彼女がいる。それなのに、なかなか届かない。どうしてこんなにも力が入らないんだろう。

「レイ……」

 蚊の鳴くような声だった。
 レイの手を握りたい。だけど、どうしても届かない。

 もどかしい。俺たちはいつも焦れったくて、近くにいても何となく遠い存在だった。もう、そういうのは終わりにしたい。二度と彼女から離れないと決めたんだ。

 俺の腕が疲れで悲鳴を上げ始めた頃。想いが通じたのか、突然彼女の瞳がフッと開き、目がバッチリ合った。息を忘れるほどに俺の心臓がどくんと高鳴った。
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