サルビアの育てかた


 いつまでも落ち込んでいたって仕方がない。

 ある日のイベント。
 俺はこの日、気合いを入れていた。いや、思い入れはいつも以上かもしれない。
 今日のダンスイベントには孤児の子たちが招待されている。会場に集まってくれた彼らが、俺たちのダンスを見て少しでも楽しんでくれればいいと思った。

「ヒルス、今日はよろしくね」
「ああ」

 舞台裏で、俺は同僚のフレアと念入りに準備体操をする。
 フレアとはよくペアでステージで踊ることが多い。体操を元々習っていた彼女はアクロバット技もいくつかできるし、しなやかな身体で観客を魅了させる。刻むテンポも綺麗で、俺はフレアとのペアダンスをいつも楽しみにしていた。
 仕事上でもよく俺のサポートをしてくれる、よき先輩。

「今日もスクールのみんなが来てるみたいね?」
「そうだな。みんな、いつもイベントがあると来てくれるんだ」

 ジャスティン先生はもちろん、ライクやメイリー、スクールの特待クラスの仲間たちが会場まで観に来てくれていた。
 だが──当然というのも虚しいが、レイの姿だけは会場のどこにも見当たらない。

 俺は柔軟運動しながら遠目になってしまう。

「……あ。今、またレイのこと考えてる」
「ん? そ、そんなことないよ」

 フレアには俺の心が読めるのか? レイのことを少しでも考えているといつも見透かされてしまう。

「顔に書いてあるわよ。『レイがいないから寂しい』ってね」
「書いてあるわけないだろ……変なこと言うなよ」

 小恥ずかしくなり、俺は小さく唸る。気持ちを切り替えるため、深呼吸をして心を落ち着かせた。
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