サルビアの育てかた
 二人で他愛ない会話をしていると、あっという間に本番の時間がやって来た。
 フレアは俺の手をサッと引いてステージへと向かった。
 俺たちがステージに立つと、観客席にいる子供たちは無表情でこちらをじっと眺めている。いつものイベントや大会ならファンが来てくれていて、歓声で場が盛り上がるのだが、今日はそういうこともない。子供やその関係者だけしかいないんだ。
 初っ端からしんと静まり返り、俺たちの存在はアウェイ感が半端なかった。 

 それでも関係ない。ダンサーとしてしっかり踊るんだ。
 俺たちは決して笑顔を絶やさなかった。

 音楽が流れ始まると、二人で息を合わせて華麗にステップを踏み始める。
 曲は子供たちの間で流行っているものを選んだ。振り付けも動きが大きくて子供にも親しみやすいダンスだ。

 サビに入ると、それぞれソロを踊る。俺は得意のブレイクダンスの技の一つであるウインドミルを見せつけた。肩と背中を床に付けて、遠心力の勢いで全身を派手に回転させる。
 フレアは普段、ウェストコーストヒップホップダンスを好んでよく踊っているが、今日は俺に並んでアクロバティックな技を繰り出していた。バク転や側宙などを、音楽に合わせて次々と綺麗に決めていた。

 ふと観客席に目を向けると、俺たちのダンスを、目に点にしながら眺める子供たちの姿があった。
 曲が中盤に差し掛かる頃には、子供たちの顔に笑みが溢れ始める。中には席を立って見よう見まねで一緒に踊る子も出てきた。

 ――この子たちは、昔のレイと同じような境遇で暮らしている。今は自分を愛してくれる家族はいないかもしれないが、きっと大丈夫。君たちには喜びも悲しみも、全てを分かち合って愛情を注いでくれる家族がきっと未来で待っているから。
 だから、今この瞬間だけは俺たちのダンスを見て楽しい時間を過ごしてほしい。
 そんな想いで俺は全力でステップを踏み続けた。
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