サルビアの育てかた
 ここはお洒落なレストランではないし、景色がいい所でもない。思い出の場所とは程遠い病院内の個室で、俺の体力が回復もしないままベッドの上で横になりながら言うことじゃないかもしれない。
 だけど、俺の気持ちは彼女に想いを伝えたいとたしかに思っている。

 大切なのはシチュエーションなんかじゃない。彼女を愛する気持ちそのものが一番重要なんだ。

「レイ、俺のコート取ってくれないか」
「えっ。でも……これ、凄く汚れちゃってるよ」

 戸惑いながらも、レイは袋に入れられたコートを取り出してくれる。鉄のような匂いが染み付き、腰回りが荒々しく破れているこのコートは、もはや使いものにならないだろう。だけどそんなことどうだっていい。

 内ポケットからそれを取り出すと、俺はそっとレイの前に大切な贈りものを差し出した。

「俺、レイと新しい家族になりたい」
「……え?」
「今までは兄妹として一緒にいたけど、これからは違う形でレイとあったかい家庭を築いていきたいんだ」

 レイは口に手を当てて、目を見開いた。

 そんな彼女の為に、俺はゆっくりと贈りものの箱を開ける。変わらず綺麗な光を放つピンクダイヤの輝きは、レイの瞳の奥をも照らした。

「……私で、いいの?」
「俺はレイじゃなきゃ駄目なんだ」

 堪えていたものがついに溢れてしまった。レイは、たくさんの雫を瞳から流している。

「……私も。ヒルスじゃないと駄目みたい」
「答えは?」
「もちろん、イエスに決まってる」

 幸せそうな笑顔で頷く彼女の表情は、 世界中のどんな宝石よりも美しい。俺の胸はありえないほどの熱で、燃えてしまいそうだった。
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