サルビアの育てかた


 イベントが終わり、俺は帰る支度も済ませてひと息ついていた。控え室で籠っているのも息苦しいので、少し会場を散策してみる。
 すると、俺の存在に気付いた子供たちが笑顔で手を振ってくるんだ。

「お兄ちゃん今日のダンスかっこよかったよ!」
「すっごく楽しかった!」

 次々に声をかけてくれた。
 子供たちの中で、一番背の高い黒髪の少年は満面の笑みで「また素晴らしいダンスを見せてください」
 瞳をきらきら輝かせながらそう言うんだ。俺は笑みを浮かべ、彼らに手を振り返す。
 
「いつでもまた踊るよ」

 子供たちは嬉しそうに「ありがとう!」と言って帰っていった。俺の思いはどうやら届いたらしい。


「そこのお兄さん、ちょっといいですか」

 俺が穏やかな気持ちでいると、突然、見知らぬ中年女性に声を掛けられる。その人はなぜか、微笑みかけてきた。

「なんですか?」

 その人はしばらく、じっと見つめてくる。

「……あの。俺の顔に何かついてます?」
「いいえ、そういうわけではないです。ごめんなさいね、急に話し掛けてしまって。少し外でお話しませんか?」

 踊ったばかりで疲れているんだがな……俺は眉をひそめながらどう断ろうかこっそり考えた。
 しかし、女性は小声でこう言うのだ。

「レイちゃんはお元気ですか」
「えっ。レイの知り合いなのか?」
「はい。もちろん知っていますし、お父様たちにもたくさんお世話になっていますよ」
「……」

 今度は俺が、女性をじっと見つめる番だ。脳裏に、幼い頃の記憶が一瞬蘇る。
 この柔らかい笑みを浮かべるこの人はまさか。──そうだ、間違いない。

「……お久しぶりです、シスター」

 その女性は、レイが俺たちの家族になる前に彼女を孤児院で保護し、大切に育てていた人だったんだ。
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