サルビアの育てかた
 退院する前、医師から冷静に告げられた。刺された箇所が悪かったのと刃物が深く身体に入ってしまったせいで、ダンスをする際に激しい動きをすると腰に負担が掛かり、踊ることは出来ないんだと。治療やリハビリをしても一生治ることはないらしいんだ。

 ──普通に歩けるのにダンスは出来ない? 理解に苦しむ。俺はダンス一筋で今まで生きてきた。他にしたいことなんて何もない!

 スタジオ内にはしばらく俺の悲しみの声だけが響いていた。その間にもレイは、ずっと俺の背中を支えてくれる。
 こんな俺を見て、ジャスティン先生は落ち着いた声で話し出した。

「ヒルス、存分に泣きたまえ」
「……先生……」
「君は幼い頃からずっと僕の所で踊り続けてきた。今まで立派にインストラクターとして生徒たちに指導をしてくれたね」

 先生の声が優しさでいっぱいになっていた。その大きな身体で弱っている俺のことを抱擁してくれた。涙で先生のお洒落な服が台無しになってしまう。

「君は僕にとって大切な生徒であり、インストラクターであり、ダンス仲間なんだ。何があってもこの先もずっとずっと、ヒルスは最高のダンサーだよ」

 先生は両腕を震わせながら、更に強く強く包み込んでくれた。

 先生の言うことはいつも俺に勇気をくれる。「この先もずっと最高のダンサー」だなんて言われたら、いつかまた踊れるようになりたいと強く思ってしまう。
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