サルビアの育てかた
 しかし、彼女に対する愛を叫びたいこんな衝動をどうにか抑え込み、俺はひたすら平静を装う。最高に格好つけながら、髪をかきあげ、わざと声を渋めに出してみる。

「まったく、レイは甘えん坊だな」
「だって」
「いいよ。嫌になるくらいキスしてあげる」

 こんな台詞を吐いている俺が、一番彼女に愛を捧げたかったんだ。

 冬の風さえも俺たちの周りを通り過ぎれば溶けてなくなっていく。寒空の下、俺とレイは人目も憚らず熱い口づけを交わした。

「あのね、ヒルス」

 俺の耳元で、レイは溶けるような声で囁く。可愛らしく甘えた彼女のこの話しかたは、俺だけが聞くことが出来る特別なもの。

「見せたいものがあるの」
「……見せたいものって?」
「凄く綺麗なもの!」

 嬉しそうにレイは小走りで俺の手を引いて行く。
 彼女がとても楽しそうに笑っている。その姿を見ただけで、さっきまでの暗い気持ちなどどこかに消え去っていった。

(もしかして、本当にレイは俺を癒す魔法を持っているんじゃないか)

 そう錯覚してしまうほどなんだ。 

 
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