サルビアの育てかた
「その後、ヒルスにも何度か面談に来てもらいましたね。あなたは最後まで妹がほしいわけじゃないとしかめっ面でしたね」
「まあ……そうですね」

 俺は苦笑した。たしかにそれははっきり覚えている。

「あの頃は三歳の子が妹になると言われても全然実感がなかったですね。家族としてレイが家に来てからも、しばらくはあまり構ったりしませんでした」

 俺はひとつひとつ言葉を並べる中、レイの顔を思い浮かべて自分の口元が緩んでいくのを感じた。

「今も反抗期で生意気だし、心配ばかりかけてうんざりしてます。それに、今でも妹とは思ってません。ただ……」

 一度間を置いてから、俺は話を続けていく。

「あいつがいると、なんというか、家族が団結するような気がするんです。レイに元気がないと皆で心配するし、あいつが笑っていると俺たちも嬉しくなる。今でこそ言葉遣いが悪くて父が叱ったりしますが、それはやはりレイのことを気にかけているからなんですよね。うまく言えないけど、レイがいてこその家族だなと思います」

 気づくとシスターは、また瞳をうるうるさせている。でもそれは悲しみなどでなく、嬉しさのものなんだと俺は分かっていた。

「俺にとってレイはただの同居人みたいな存在でしたよ。でも一緒に過ごすうちに見方が変わりました。あいつは努力家だし素直だし、なんか憎めないんです。だからレイがなにかに悩んでいたら助けてやりたいし、できるだけ笑っていてほしいんです」

 俺に対して、シスターはまた深く頭を下げた。

「もう、充分ですよ……あの子がどれだけ大切にされ、愛情をもらって育てられてきたのか。充分すぎるくらいに伝わりました……。本当に、ありがとう」

 レイの幸せを願っているのは、俺たち家族だけじゃない。知らないところで長年彼女を想い続けている人がいたのだという事実に、俺の胸がぐんと赤く染め上がっていった。
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