サルビアの育てかた
 俺たちがそんな会話をしていると、玄関の方でドアの開く音が聞こえてきた。無言で帰ってきたレイを迎え、俺は彼女に前歯を見せて微笑んだ。

「レイ、おかえり」
「……」

 相変わらずそっぽを向いて返事すらしないが、俺は負けずと顔を覗き込む。

「お、か、え、り。レイ! 聞こえたか?」
「……」

 ものすごく鬱陶しそうな表情をして「うるさい」と小声で呟いているのが聞こえた。
 それでもお構いなしに、俺はレイの頭をわしゃわしゃと撫で回す。全力で嫌がり目も合わせてくれないが、そんな反応すら今日は可愛く思えてしまう。

「飯食ったのか?」
「……別に」

 低い声で返事をするとともに、タイミングよくレイのお腹が夕飯を食べたいと大きな音を立てた。

「腹減ってるんだな?」
「……違う」
「今日は久しぶりに家族四人で夕飯食うぞ」
「違うって言ってる! 三人で食べなよ」
「そう言うな。ほら、手洗えよ」

 顔を真っ赤にして首を横に振るレイを半強制的に食卓に座らせ、俺は彼女が逃げないよう真隣に腰かけた。
 最後までレイは嫌な顔をしていたが空腹には敵わなかったらしく、母の作ったご飯を無言で食べていた。
 そんな不貞腐れた態度ですら、今日の俺にとっては何だか愛らしく思えるんだ。

 ──そして、レイの態度が変わらないまま月日が流れる。事態は想像以上に重いものになっていくなんてこと、そのときの俺たちは思いもしなかったんだ。
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