国の擬人化達との同居生活
時計を見るとまだ深夜。
布団に包まり直すが、夢の内容が気になって寝付くことができない。
でも、目を閉じると、、、スっとどこかの風景が頭に流れ込んでいた。
目を開けると、知らない場所に立っていた。
「わぁ―――」
思わず叫んでしまった。
地面を覆い尽くすような無数のユリの花。真っ白な花弁が日光の光を受けて、眩いくらいに反射していた。
「綺麗、、、」
ユリの花といえば、お花屋さんの店頭にあるものか、花束に入っているものしか見たことがなかった。こんなに沢山のユリの花を見たのは初めてだった。
「良い匂い、、、」
うっとりとしながら花を眺めていると、すぐ後ろでくすりと笑う声がした。
「私の大切な人が育てたのよ」
その声に振り返ると、さっき夢で見た女の子が立っていた。
肩まで切り揃えられた金髪に、ふわりと微笑む笑み。そして、淡い色合いのワンピースを着て立っていた。
「あの、、、勝手に入ってきてすみません!!」
私有地に入ってしまっていたことが頭をよぎり、すぐに出ようとするが、女の子に「待って」と呼び止められた。
「私、貴方と仲良くなりたいの」
「え、、、?」
「私はジャンヌ。貴方は?」
「菜羽、、、」
「菜羽!可愛らしい名前ね」
ジャンヌと名乗った女の子は、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、、、」
少し照れくさくて、視線をユリの花に落とす。
「綺麗でしょ。この花は毎年、この時期になると贈られてくるの」
「贈り物だったんだ」
暖かい風が吹いて花を揺らす。
「誰から贈られるの?」
これだけの花の量、かなりの人数から貰ってると見た。
ユリの花言葉は『清潔』『純粋』『飾らぬ美』
(ジャンヌ、、、モテモテじゃん、、、)
確かにジャンヌは私から見ても可愛い。
ふと気になって尋ねると、ジャンヌは少しだけ目を細めた。
「大切な人からよ」
「へぇ、、、!」
そう言われたジャンヌの声は、とてもやわらかくて、でもどこか遠かった。
手のひらを頬に添えるみたいな、そんな優しい響きだった。
「恋人とか、、、?」
思わず聞いてしまってから、はっとして顔を上げる。
でもジャンヌはちっとも不愉快そうにせず、ゆっくりと首を横に振った。
「恋人 、、、ではないのだけど、大切な人よ」
そう言って、ジャンヌはユリの花にそっと触れた。
白い花弁は、彼女の指先をやさしく包み込むように揺れた。
「その人はね、とても不器用だったの」
「不器用?」
ジャンヌはふふ、と小さく笑ったけれど、その瞳は少し寂しそうだった。
「でもね、不器用なくせに……この花だけは、毎年欠かさずに贈ってくれるの」
風がまた吹いて、ユリの花畑がさらさらと音を立てる。
まるで波のように、白が揺れて、広がって、どこまでも続いている。
「今でも、、、?」
「ええ」
ジャンヌはそう言って、遠くの空を見上げた。
「もう、会うことは出来ないはずなのにね」
「、、、それなのに?」
「それなのに、ちゃんと届くの。不思議でしょう?」
私は何も言えなかった。
胸の奥が、少しだけ締めつけられるみたいだった。
死んでしまった人?
それとも、、、もっと、違う何か?
「でも、悲しくはないの」
ジャンヌは私の方を振り向き、にっこり笑う。
「たとえ夢の中でもね」
ドクン、と心臓が強く鳴った気がした。
「ここは、、、夢なの?」
「そうとも言えるし、違うとも言える」
ジャンヌは指を唇に当てる。
「でも、忘れないで。夢の中で出会ったからって、全部が嘘なわけじゃないのよ?」
そう言ってくすっと笑ったジャンヌの後ろで、またユリの花が、ゆっくりと揺れた。
暖かい春のような風が吹き抜ける。
「ここはね、一年中暖かい場所。夏でも、冬でも」
「ジャンヌ、、、?」
少し悲しそうな顔をしている。
「そうだ、これを菜羽に預けても良いかな?」
ジャンヌは自分の首に掛けていた物を私の首に掛けた。
「またね。もう一人の私」
ジャンヌがそう言うと、視界がぼやけていって、、、、、、
待って、もう一人の私ってどういうこと!?
そう聞きたかった。聞きたかったのに、言葉が出ない。
ジャンヌは、微笑みながら私に手を振っている。
気が付いたら、自分の部屋だった。
天井も、窓越しに聞こえる車のクラクションの音も、いつも通り。
(夢、、、だったの?)
でも、自分の手を嗅いでみると、甘いユリのにおいがした。
(、、、夢じゃない)
そう思った瞬間、胸の奥にじんわりと何かが広がる。
ごそ、と布団から起き上がり、枕元を見る。
そこには何もない。花も、光も、ジャンヌの姿も。
(もう一人の、、、私)
その言葉が、何度も頭の中で反復される。
もう一人って、何?
私の中に、別の人格があるってこと?
それとも、、、過去の私?
考えれば考えるほど、霧の中に沈んでいくみたいで。
そのとき、胸元でシャラシャラと金属の音が聞こえた。
「、、、え?」
パジャマの襟元に手を入れると、そこに、小さな何かが触れる。
取り出したそれは―――小さな、ペンダントだった。
中央にユリが浮き彫りになっていて、ステンドグラスを模したように角度を変えるとキラキラ輝いている。
今まで、こんなの持ってたっけ、、、。
指で触れると、ひんやりしているのに、不思議と心が落ち着く。
私はそれをぎゅっと握りしめた。
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