国の擬人化達との同居生活
私は中々寝付けず、水を飲もうとして一階のリビングに降りると、ソファに座って月を眺めていた中国くんを見付けた。
「今日は満月あるね」
「うん」
今日は七夕の日には珍しい、晴れの日だった。
いつもこの時期には雨が降るのにね。
「寝付けねーあるか?」
「え?」
不意に聞かれて、少しだけ肩が跳ねた。
中国くんは相変わらず月を見たまま、湯呑みを両手で包んでいる。
「……うん、ちょっと」
正直に答えると、中国くんは小さく鼻で笑った。
「考え事で寝付けねーあるね?」
「えっ」
何で分かったんだろう?
「伊達に五千年生きてねーあるよ!」
ソファの反対側をぽんぽんと叩かれて、促されるまま腰を下ろす。
「中国くんは......好きな人とかいなかったの?」
そう聞いた瞬間、中国くんがむせた。
「なっ、何てこと聞くあるか!?」
咳き込みながら、湯呑みをテーブルに置く中国くん。
珍しく余裕のない様子に、少しだけ驚いた。
「ご、ごめん……変なこと聞いた?」
「変じゃねーけど、タイミングってもんがあるね!」
そう言いながらも、完全に怒っているわけではなくて。
「だって……みんな、長く生きてるでしょ」
「……」
「フランスくんとか、イギリスくんとか……過去に大切な人がいたみたいだし」
中国くんはしばらく黙り込んで、また月を見上げた。
「……いたあるよ」
ぽつりと、低い声で言った。
「勇敢で、情熱的で、そして意志の強い子だったある。幼い時から纏足を嫌い、武道を習うような少女だったある。今の言葉で言えば『枠にはまらない』あるね」
中国くんは、どこか懐かしむように目を細めた。
「危ないことばかりする子だったあるよ。何度も止めさせようと説得したある」
「……止めなかったんだ」
私がそう言うと、中国くんは少し驚いた顔をしてから、ゆっくり頷いた。
「そうあるね。今思えば、あの時ちゃんと言い聞かせていれば、あの子は殺されずに済んだあるね」
「え......」
湯呑みを置く音が、やけに大きく響く。
月明かりに照らされた横顔は、いつもよりずっと静かだった。
「それは、我のエゴある。あの子の人生を、我の後悔で測るのは違うあるね」
「あの......その人の名前は......」
「秋瑾」
その名前を口にした瞬間、中国くんの声が、ほんのわずかに揺れた。
「秋の瑾《たま》。硬くて、割れない玉。……あの子に、よく似た名前ある」
私はその名前を、心の中でそっとなぞる。
聞いたことがあるような、ないような――でも、不思議と胸に残る響きだった。
「その人は……どんな最期だったの?」
聞いてしまったあとで、しまった、と思った。
「……革命に関わって、捕まったある。逃げる道も、助かる道もあったのに」
一拍置いて、また言った。
「それでも、彼女は引かなかった」
月が雲に少しだけ隠れ、光が淡くなる。
「女だからって、黙らされる時代じゃねーって……立派な子だったあるよ」
その言葉は誇らしげで、同時に、とても悲しそうだった。
気付けば、涙が零れていた。
何でだろう。その秋瑾さんのことはよく知らないのに、初めて聞いた名前なのに何で泣いて......。
私が黙って涙を落としていると、中国くんは一瞬だけ目を見開いて、それから困ったように笑った。
「……あー……泣かせるつもりは、なかったある」
「ご、ごめん……」
慌てて袖で目元を拭うけれど、涙はなかなか止まらない。
あぁ、最悪だ。泣き虫な自分につくづく嫌気が差す。
「知らない人の話なのに……胸が、ぎゅってして……」
中国くんは、しばらく何も言わなかった。
「菜羽は......優しい子あるね」
「今日は満月あるね」
「うん」
今日は七夕の日には珍しい、晴れの日だった。
いつもこの時期には雨が降るのにね。
「寝付けねーあるか?」
「え?」
不意に聞かれて、少しだけ肩が跳ねた。
中国くんは相変わらず月を見たまま、湯呑みを両手で包んでいる。
「……うん、ちょっと」
正直に答えると、中国くんは小さく鼻で笑った。
「考え事で寝付けねーあるね?」
「えっ」
何で分かったんだろう?
「伊達に五千年生きてねーあるよ!」
ソファの反対側をぽんぽんと叩かれて、促されるまま腰を下ろす。
「中国くんは......好きな人とかいなかったの?」
そう聞いた瞬間、中国くんがむせた。
「なっ、何てこと聞くあるか!?」
咳き込みながら、湯呑みをテーブルに置く中国くん。
珍しく余裕のない様子に、少しだけ驚いた。
「ご、ごめん……変なこと聞いた?」
「変じゃねーけど、タイミングってもんがあるね!」
そう言いながらも、完全に怒っているわけではなくて。
「だって……みんな、長く生きてるでしょ」
「……」
「フランスくんとか、イギリスくんとか……過去に大切な人がいたみたいだし」
中国くんはしばらく黙り込んで、また月を見上げた。
「……いたあるよ」
ぽつりと、低い声で言った。
「勇敢で、情熱的で、そして意志の強い子だったある。幼い時から纏足を嫌い、武道を習うような少女だったある。今の言葉で言えば『枠にはまらない』あるね」
中国くんは、どこか懐かしむように目を細めた。
「危ないことばかりする子だったあるよ。何度も止めさせようと説得したある」
「……止めなかったんだ」
私がそう言うと、中国くんは少し驚いた顔をしてから、ゆっくり頷いた。
「そうあるね。今思えば、あの時ちゃんと言い聞かせていれば、あの子は殺されずに済んだあるね」
「え......」
湯呑みを置く音が、やけに大きく響く。
月明かりに照らされた横顔は、いつもよりずっと静かだった。
「それは、我のエゴある。あの子の人生を、我の後悔で測るのは違うあるね」
「あの......その人の名前は......」
「秋瑾」
その名前を口にした瞬間、中国くんの声が、ほんのわずかに揺れた。
「秋の瑾《たま》。硬くて、割れない玉。……あの子に、よく似た名前ある」
私はその名前を、心の中でそっとなぞる。
聞いたことがあるような、ないような――でも、不思議と胸に残る響きだった。
「その人は……どんな最期だったの?」
聞いてしまったあとで、しまった、と思った。
「……革命に関わって、捕まったある。逃げる道も、助かる道もあったのに」
一拍置いて、また言った。
「それでも、彼女は引かなかった」
月が雲に少しだけ隠れ、光が淡くなる。
「女だからって、黙らされる時代じゃねーって……立派な子だったあるよ」
その言葉は誇らしげで、同時に、とても悲しそうだった。
気付けば、涙が零れていた。
何でだろう。その秋瑾さんのことはよく知らないのに、初めて聞いた名前なのに何で泣いて......。
私が黙って涙を落としていると、中国くんは一瞬だけ目を見開いて、それから困ったように笑った。
「……あー……泣かせるつもりは、なかったある」
「ご、ごめん……」
慌てて袖で目元を拭うけれど、涙はなかなか止まらない。
あぁ、最悪だ。泣き虫な自分につくづく嫌気が差す。
「知らない人の話なのに……胸が、ぎゅってして……」
中国くんは、しばらく何も言わなかった。
「菜羽は......優しい子あるね」


