上野発、午前零時
 直樹は、明日香のトラックに乗り込み、助手席に座る。

「前に乗ったときより、少し余裕あるな」

「慣れただけでしょ。今回も荷下ろし、頼むよ」

「もちろん。助手だからね」

 笑い合った後、少しの沈黙。明日香は、トラックのエンジンを始動した。

 ラジオから流れる演歌をBGMに、トラックは首都高を抜け、東北道を北へと進んでいく。

   ◇◇

 東京への帰り、パーキングエリア。

 トイレを済ませ、缶コーヒーを買って戻ってくると、ふたりは並んでベンチに座った。

「……今日、乗せてもらってよかった」

「そう?」

「うん。なんか、気持ちが整理できた気がする」

 缶を見つめながら、直樹が続ける。

「やっぱり、俺、舞台続けたい。ちゃんと、腹括ろうと思う」

 明日香はうなずいた。

「そう思えるなら、それが正解なんじゃない?」

 しばらくして、直樹がゆっくりと顔を上げる。

「……僕、たぶん、明日香さんのこと……」

 その先の言葉を言いかけたとき、明日香がすっと視線を向けた。

「舞台で身を立てる自信がついたら、そのときに聞くよ」

 拒否ではない。まだ若い彼を応援する気持ちだった。
直樹は、何か言いかけたまま、口を閉じた。
一度目を伏せたが、再び明日香を見て、柔らかく微笑んだ。
  
 トラックが再び動き出す。窓の外には、夜明け前の空がうっすらと明るくなり始めていた。

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