上野発、午前零時
エピローグ
それから、三ヶ月が過ぎた。
九月の終わりの空気が肌にやさしく触れる上野駅。貨物搬入口の前を走る道には、夏の名残と秋の匂いが混じっていた。
いつもの時間、いつもの作業。明日香は、トラックの荷台に立って、バイトの学生たちから新聞の束を受け取っていた。
「はい」
「行き先が同じ新聞をまとめて渡してくれる?」
学生に軽く言いながらも、明日香は迷いなく所定の位置に新聞の束を積んでいく。
直樹の姿はもうない。
劇団を本格的に動かすって言っていたのを、ふと思い出す。
演劇を続けると決めたあの夜の言葉から、明日香は特に何も聞いていない。
でも、それでいいと思っていた。
缶コーヒーを飲むタイミングも、すっかり元に戻った。
今日は新人のバイトがひとり入っていた。
緊張気味のその学生が、彼女に話しかける。
「あの……名前、教えてもらえますか?」
明日香は、新聞の束を荷台に載せながら、淡々と答える。
「名乗らなくても、そのうち覚えるでしょ」
学生が少し驚いたように笑い、返事をする。
「はい。……よろしくお願いします」
明日香は少しだけ口元をゆるめ、次の束を受け取った。
照明の下、黙々と働く明日香の背中に、変わらぬ夜の風が吹いていた。
<END>
九月の終わりの空気が肌にやさしく触れる上野駅。貨物搬入口の前を走る道には、夏の名残と秋の匂いが混じっていた。
いつもの時間、いつもの作業。明日香は、トラックの荷台に立って、バイトの学生たちから新聞の束を受け取っていた。
「はい」
「行き先が同じ新聞をまとめて渡してくれる?」
学生に軽く言いながらも、明日香は迷いなく所定の位置に新聞の束を積んでいく。
直樹の姿はもうない。
劇団を本格的に動かすって言っていたのを、ふと思い出す。
演劇を続けると決めたあの夜の言葉から、明日香は特に何も聞いていない。
でも、それでいいと思っていた。
缶コーヒーを飲むタイミングも、すっかり元に戻った。
今日は新人のバイトがひとり入っていた。
緊張気味のその学生が、彼女に話しかける。
「あの……名前、教えてもらえますか?」
明日香は、新聞の束を荷台に載せながら、淡々と答える。
「名乗らなくても、そのうち覚えるでしょ」
学生が少し驚いたように笑い、返事をする。
「はい。……よろしくお願いします」
明日香は少しだけ口元をゆるめ、次の束を受け取った。
照明の下、黙々と働く明日香の背中に、変わらぬ夜の風が吹いていた。
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