【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
──それは、合同会議を終えて、自席に戻った直後のことだった。

「正直、御社の規模でこの対応では、取引を続けていくのは難しいかもしれません」

電話越しに放たれた言葉は、丁寧だが冷たかった。
相手は、地方自治体と関連の強い協力企業の担当者。
今回の騒動を受け、進行中だった共同プロジェクトを“当面保留にする”と通告してきた。

「……おっしゃること、重く受け止めております。
現在、法務と連携して事実関係の精査と再発防止策の策定を進めておりまして……」

必死に言葉を紡ぎながらも、喉の奥が強張る。
この対応が少しでも曖昧なら、会社としての信用に致命的な傷がつく。

「いえ、説明責任を果たされるのは当然ですが……。
“保険を通じて安心を届ける”会社が、いまや“騒動の中心”にいるという状況は、非常に重いですよ」

ぐさりと刺さる。わかっている。それでも、改めて言われると、苦しかった。

「……はい、重々承知しております。必ず、誠意をもって対応いたします」

通話を終えると、紬はスマートフォンをそっと机に伏せた。
背中に張りついた冷や汗が、不意に重たく感じる。

(私は……ちゃんと守れてるの?)

この会社に入ったとき、「人に寄り添える仕事がしたい」と思った。
いま自分がしているのは、“誰にも寄り添えていない”ような気がして。

けれど、目の前にはまだ未返信のメール、未対応の報告、社内の不安が山積している。

「……まだ、終わってない」

誰にでもなく、小さく呟いて拳を握る。
泣いてる暇なんて、ない。

そのとき──

「成瀬さん、少し休憩入れてください。飲み物、持ってきました」

ふと隣で、佐藤がペットボトルと栄養補助食品を差し出していた。
驚いて顔をあげた紬に、佐藤は緊張した笑みを浮かべて言う。

「成瀬さんが倒れたら、僕、めっちゃ困るんで」

その一言に、ふっと緊張が緩みそうになって──けれどすぐ、紬はまた笑みを戻す。

「ありがとう。……でも、もう少しだけ頑張るね」

彼女は再び、モニターに向き直った。

誰かに寄り添うために。
たとえ風当たりの強い立場でも。

──決して、諦めない。
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