【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
「紬、そろそろ帰らないと……」

背後からかけられた声に、紬は顔を上げた。
あかりが、ジャケットを抱えながら心配そうに立っている。

「もう22時まわってるよ。私、今日はこれで帰るからね」

「……うん、ごめんね。付き合わせちゃって」

「ううん、私も資料整理あったし……。でも、無理しすぎないでよ。紬が倒れたら困るからね」

やわらかな微笑みを残して、あかりはオフィスを後にした。

そのあと、また一人、また一人と。
デスクのライトが順に消え、最後には自分だけが取り残された空間になった。

キーボードを打つ手を止めると、目の奥がずきりと痛む。
目を瞑ると、まぶたの裏に浮かぶのは──SNSで拡散された、数えきれない書き込み。

(……また、更新されてる)

高森の投稿と思われる内容の中に、どこかで聞いたような言い回しや対応の描写があり、胸がぎゅっと締めつけられる。

(あれ、私のこと……だよね)

実名は出されていない。けれど、知っている人が見れば気づく程度の婉曲表現。
それが逆に、リアリティをもって突き刺さる。

「はぁ……」

小さくため息をついて、もう一度モニターを見つめ直す。
その瞬間──スマートフォンが小さく震えた。

【隼人】
「紬、何時に帰ってこれそう?」

それだけの短いメッセージに、胸がじわりと熱くなる。

──心配、かけてるよね。
誰よりも近くにいてくれる、あの人にまで。

感情が、ぐちゃぐちゃになり始めている。
踏ん張る糸が、もう少しで切れそうで。

「……もう、今日は無理かも」

そう呟いて、紬は静かにパソコンを閉じた。
音もなく立ち上がり、誰もいないオフィスをあとにする。

帰ろう。
ほんの少し、肩の力を抜きに。
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