【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
ベッドの上、向かい合って座るふたり。
紬は静かに目を閉じていたが、その瞼の奥にはまだ眠れない何かが残っていると、隼人は感じ取っていた。

無理もない──あの炎上騒ぎ、社内外の混乱、重なる責任。
誰だって、すぐには心を解かせない。

けれど、何も言わなくても伝わるものがある。
隼人はそっと手を伸ばし、紬の髪をふわりと撫でた。
その瞬間、彼女の表情がすこしだけ柔らいだのを見て、ようやく呼吸が浅くなる。

それでも、顔にはまだ微かな緊張が残っている。

隼人は、ゆっくりと低い声で言った。
「紬……ちょっと、眠れるようにしてあげる」

そう言って、身を寄せる。
すっとブランケットを広げて、彼女の体をふんわりと包んだ。
静かに、優しく、守るように。

そのまま紬を横たえると、彼女は隼人の胸元に顔を埋めながら、小さく笑った。

「隼人の匂い……やっぱ、落ち着く……」

手をつないだまま、紬はぎゅっと力をこめる。
まるで、目に見えない不安から自分を繋ぎとめようとするかのように。

「……ねえ、隼人。今日くらい……甘やかしてくれるの?」

その声に、隼人は穏やかに微笑む。

「睡眠導入してあげるよ」

囁くように言ってから、紬の両耳にそっと指先をあてた。
ゆっくりと、輪郭をなぞる。
ふちを撫で、柔らかく、包み込むように触れる。

耳には、たくさんの神経が集まっている。
だから、丁寧に優しく刺激すれば、自然と心と体がほどけていく。

──自分自身がストレスに押し潰されそうだった頃に、どこかで知った知識だった。

当時は、自分のためだけのものだった。
まさか、誰かを癒すために、この感覚を使う日が来るなんて、想像もしていなかった。

だけど今は違う。

この手が、彼女の重荷をほんの少しでも和らげられるなら。
この時間が、彼女の心に静かな夜を取り戻せるなら。

隼人は、優しく紬の耳をなぞり続けた。
言葉も、理屈も、何もいらない。
ただ、その手に全てを込めて──。
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