【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
倒れた紬をベッドに運び、体温計を挟んだとき――
表示された数値に、隼人の眉がわずかに動いた。

39.5度

「……高いな」

冷却シートを取り替え、氷枕を新しくして、水を含ませたタオルで額をそっと拭く。
紬の頬は赤く、呼吸は浅く速い。
何度も咳き込んで、そのたびに小さなうめき声を漏らしていた。

「水、飲めるか?」

差し出したコップに、かすかにうなずいて口をつけるが、すぐに顔をそむけるようにして拒んだ。
喉の痛みか、体力が限界なのか――たぶん、両方だろう。

時計を見る。午前2時を過ぎていた。

(このまま様子を見ていいのか……いや、今、医者に連れて行くべきか……)

迷いの渦の中で、隼人の視線は何度もスマホと紬の顔を行き来した。
119を呼ぶほどではないかもしれない、でも、もし何かあったら。

「……紬、起きられるか?」

返事はない。ただ浅い呼吸と、時折の咳だけが返ってくる。

隼人は、そっと彼女の手を握った。

「無理そうなら、俺が連れてく。今から病院、行こう」

紬のまぶたが、かすかに揺れた。

「……やだ……行かなくて、いい……隼人が、いるから……だいじょうぶ……」

呂律の甘い声。
熱で意識がもうろうとしている。
まともな判断力は残っていない。

(本人が嫌がっても、俺が決めなきゃならないときがある)

唇を引き結んだ隼人は、スマホを取り出すと、近くの救急外来がある病院を探し始めた。

その目は、すでに「迷い」ではなく「決意」に変わっていた。
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