【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束

「……ただいま、戻ったよ」

隼人がそう言って寝室に戻ると、紬はまだ完全に眠ってはいないようだった。
目をうっすらと開け、ぼんやりとした視線を彼に向ける。

「……おかえり」

小さく微笑んで、手を伸ばす。
隼人はすぐにその手を包み、ベッドの縁に腰を下ろすと、そっと紬の額に手を当てた。
さっきよりも、ほんの少しだけ熱が下がっている気がする。

「まだしんどい？」

紬はゆっくりと首を振る。

「ううん……さっきより、楽。……点滴のおかげかな」

「よかった」

隼人は、安堵の息をひとつ吐いて、彼女の髪を指で梳いた。
ゆっくり、優しく、慈しむように。

「……ねぇ、隼人」

「ん？」

「隼人がいてくれて、よかった……。私、あのまま倒れて……ひとりだったらって思うと、ちょっと怖かった」

そう言って紬は、そっと隼人の手を自分の頬に当てる。
体温よりも少しだけ低い手のひらが、熱を持った頬に心地よかった。

「俺がいるよ。これからもずっと、何があっても」

隼人の声は低く、温かかった。
その言葉を聞いた瞬間、紬の目にうっすらと涙が浮かぶ。

「……私、もうちょっとだけ、頑張れる気がする」

「もう頑張ってる。十分に。……でも、まだ頑張るなら、その分は俺が支える。ちゃんと、全部」

紬は小さく笑って、隼人の胸にそっと額を預けた。
そのぬくもりに包まれるだけで、深く、深く、安心できた。

「……眠くなってきた」

「じゃあ、そのまま寝て。ほら、ぎゅってしてあげるから」

隼人はゆっくりと布団の中に入り、紬の背中を優しく抱き寄せた。
紬はその腕の中で、静かにまぶたを閉じる。

まだ熱はあるけれど、心はもう大丈夫だと思えた。

静かな朝の光の中で、ふたりの時間が、穏やかに流れていった――。