【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
窓の向こうでは、すっかり朝の光が部屋を満たしていた。
紬はベッドの中で身をよじり、もぞもぞと起き上がろうとする。

「……会社に……連絡、しないと……」

かすれた声でそう呟きながら、咳がこぼれる。
身体を起こす力も十分には戻っていないようで、まだ目もふらついていた。

「おはよう」

声をかけながら隼人がベッドの脇にしゃがみこむ。
その声はいつもより少し柔らかくて、低い。

「今日は一日、ゆっくりしよう。な?」

「……隼人、お仕事……休みなの?」

紬がぼんやりと尋ねると、隼人は苦笑しながら答えた。

「うん。今日は俺も休むよ。紬、放っておけないでしょ」

「……え、いいの?私は……嬉しいけど」

「有給、全然使ってないし。むしろ消化しないと、上に怒られる」

そう言って隼人が肩をすくめると、紬はふっと笑った。
その笑顔を見て、隼人は内心、心底ホッとした。
少し前まであれほど苦しそうだった彼女が、こうして冗談に反応して笑ってくれる。
それだけで救われる思いだった。

「会社に電話、かけてあげようか?」

「……恥ずかしいから、自分で……するよ」

言葉の途中でも、紬はまた咳き込んだ。
隼人は眉をひそめ、すぐに優しく言い直す。

「それじゃあ電話できないよ。俺に任せて。ちゃんと、“彼女大事にしてるオーラ全開”で連絡するから」

それだけでは終わらず、隼人は少しだけ悪戯っぽく笑いながら続けた。

「あと、“過酷労働させたらどうなるか”もキツく言っとかないとね」

「ほんとに、余計なこと言っちゃ……ダメだよ……」

呆れたように紬が言うと、手元でスマートフォンの画面を開いて隼人に差し出した。
そこには、上司である片山の名前と番号が表示されていた。

「了解。じゃあ俺、最高に優秀な秘書として任務遂行します」

冗談めかした隼人の言葉に、紬は小さく笑って、そのまま布団の中に身を沈める。
温かい空気と、彼の言葉が、体の芯にまで沁み込んでいくようだった。
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