【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
数日が経ち、熱もようやく落ち着いてきた。

喉の痛みはまだ少し残っているけれど、ふらつく感じはほとんどなくなり、紬はようやく布団の中から起き上がることができるようになっていた。

けれど。

「はやと〜……喉、ちょっと痛い……お茶入れて……」

寝室のベッドから、甘ったるい声が飛ぶ。

キッチンで洗い物をしていた隼人は、小さく苦笑しながら手を拭き、湯呑みに入れた温かい緑茶を持って戻ってくる。

「はい、どうぞ。少しずつ飲んで」

「ありがと……あ、ついでにブランケット……」

「さっき自分で取ってたよね?」

「うん。でも今日はちょっと甘えたい日ってことで……」

ベッドの中で、いたずらっぽく笑う紬。
ふわふわのブランケットを肩までかけてもらうと、満足げに頷いた。

その後も、
「お粥もうちょっとだけ食べたいかも」と言えば、隼人がレンジで温めて持ってきてくれ、
「テレビのリモコン遠い……」とぼやけば、すかさず手元に置かれる。

すっかり“隼人専属の看護サービス”に味をしめた紬は、治ってきた今もなお、ついお世話をお願いしてしまう。

そして、そんな様子を見て、隼人はついに軽く眉をひそめた。

「紬……それ、風邪が長引いたらもっと構ってもらえるって思ってるでしょ」

「……風邪ひくのも悪くないかも」

紬は悪戯がばれた子どものように、舌を出して笑った。

その表情に、隼人は一瞬ふっと表情を緩めたけれど――

次の瞬間、少しだけ真剣な顔になって、ベッドの縁に腰を下ろすと、紬の頬に軽く手を添えた。

「風邪ひくの、悪くなかったとか言わないの」

「……え?」

「風邪ひかなくても、ちゃんと可愛がるし、構うし、甘やかす。だから、そんなことで体壊そうとしない」

その静かな声に、紬は目を瞬かせた。

「あ……ごめん。そうだよね。心配させちゃったよね」

「うん。……本当に、心配した」

隼人は紬の額に唇を落とすと、小さく息を吐いた。

「だから、もう風邪ひかないように気をつけて。俺も気をつけるから」

紬はその言葉に頷いて、ブランケットの中から手を伸ばして、隼人のシャツの裾をきゅっと掴んだ。

「うん……でも、もうちょっとだけ甘えててもいい?」

隼人は苦笑しながら、そっとブランケットを持ち上げてベッドに潜り込むと、紬を胸元に抱き寄せた。

「いいよ。今日までね」

「……明日も、ちょっとだけね?」

「……ずるいな」

そんな会話の中、二人だけの静かな午後は、柔らかくゆっくりと流れていった。
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