【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
シャワーを終えて、涼しげな部屋着姿の紬がベッドの上に腰を下ろす。
その膝の上に、隼人がごろりと頭を預けてきた。冷房の風が静かにカーテンを揺らしている。

「……俺、あの会議、かっこよかった?」

突然の問いに、紬はまばたきをした。

「……会議?」

「高森案件。最後の合同会議のとき」

「ああ、あれかぁ」

紬は少し頷いて、手を隼人の髪にそっと通す。

「うん、かっこよかったよ。キリリってしてて。“あ、プロだな”って思った。……何言ってたかは忘れたけど」

「それ大事なとこだよな」

苦笑する隼人の声に、紬がくすくすと笑う。

「でも、かっこよかったのは覚えてるよ。隼人くんは、やっぱり“締めるとこは締める”人だから」

その言葉に満足したのか、隼人はふいに――
紬の脇腹に指先を這わせて、くすぐった。

「ひゃっ……! ちょ、ちょっと……!」

笑いながら身を捩る紬に、隼人が真顔で言う。

「専用枕がそんなに揺れたら、眠れないでしょ。静かにしてて」

「なにそれ……!」

息を整えながら呆れたように言うと、隼人は膝の上で少しだけ顔を上げる。

「……キス、して」

唐突で、でもどこか甘えるようなその声に、紬は少しだけ照れながらうなずいた。

そして、ふわりと触れるような、羽のように軽いキスを一度だけ額に落とす。

「……それで許されると思ってんの?」

隼人の目の奥に、熱が灯る。

「キスの仕方、まだ覚えてないの?」

挑発めいたその声に、紬はむっと唇を尖らせた。

「……だって、隼人くんみたいに経験豊富じゃないもん」

「……へぇ。だったら、まだ教育が必要だね」

隼人はゆっくりと上体を起こす。
その動きに合わせて、紬は警戒したようにベッドの端へそろそろと身を寄せた。

「……な、なんか……嫌な予感がする」

すると、隼人はベッドの中央で膝を叩いた。

「なんで離れんの。可愛がってあげるから、おいで」

その声音は優しくて、でも逃れられないような圧もある。

紬は一瞬ためらって、けれど――吸い寄せられるように、隼人の胸元に身を投げた。

「……もぅ、ずるいよ……」

「はいはい。今夜は、俺が甘える番だからな」

そのまま、ぎゅうっと抱きしめられる。
熱を帯びた夏の夜に、ふたりの体温がひとつに溶けていく。
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