【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
紬の体が、隼人の膝の上にすとんと収まった。
その体勢のまま、ふたりの視線が交わる。

「……で?」

隼人が低く囁く。

「さっきのキス、あれで“よし”だと思ったの?」

「……だ、だって……。最初のは、それでいいのかなって……」

声が小さくなる。
恥ずかしさと戸惑いが混ざったような紬の顔に、隼人はふっと口元を緩めた。

「じゃあ……俺が、お手本を見せる」

その言葉と同時に、隼人の手が紬の背中に回る。
ぴたりと密着するように、もう片方の手は彼女の腰へ。

ガッチリと包み込むようなその腕に逃げ場はなく、紬は自然と体の力を抜かざるを得なかった。
息を呑む間もなく、隼人の唇がそっと重なる――。

最初は、ほんの軽い触れ合い。
羽が触れるように、優しく、ほんの一瞬。

けれど、すぐにそれは深みを増す。
唇が吸い付くように、しっかりと押し当てられる。
隼人のキスは、深く、熱く、呼吸すら奪うようで――

「……っ」

紬の肩が震える。
けれど、背中と腰に添えられた隼人の腕は、優しくも確実に逃がさない。

「……力、抜いて」

囁くような声が耳元に落ちる。
甘く、蕩けるような声で。

その通りに紬がわずかに肩の力を抜くと、キスはさらに深くなった。
唇の縁をなぞるように舌先が触れ、呼吸と鼓動が混ざり合う。

長い、長い時間が流れたあと――
ようやく唇が離れた。

「……これが、“ちゃんとしたキス”。」

隼人が、わずかに意地悪く微笑む。

「……次は、紬の番」

「えっ……」

目を瞬かせた紬に、隼人は静かに目を閉じて、再び彼女の膝の上に頭を戻す。

「さっきの、再現してみて。俺がしたみたいに」

心臓の音がやけにうるさい。
それでも、拒めない――この空気、この眼差し、この“隼人”。

紬はそっと顔を近づけ、震える指先で隼人の頬に触れる。

「……いくよ」

囁いて、唇を重ねる。

最初はやっぱりぎこちない。けれど、
さっきの隼人の動きを、必死に思い出して――
そっと吸い付き、息を整えながら、唇の柔らかさを確かめるように。

それだけで、隼人の眉がわずかに緩んだ。

「……うん、いい子」

その声が、紬の胸に甘く響いた。
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