【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
「……ん。あと30部」

紬はオフィスの片隅、コピー機の前で資料の印刷を待っていた。
コンコン、と紙を揃えて入れ直すと、機械が低い唸りを上げて再び動き出す。
ルーチンワークの合間に、ほっと一息つけるこの瞬間。だけど今日は、どこか背中に視線を感じる。

「……茜?」

振り向くと、少し離れたところで腕を組みながら、じぃーっと紬の左手を見つめている同期・茜の姿があった。

「なに? そんな真剣な顔で」

「あ、ごめん。いや……その……」
茜は目を細めたまま、ひとこと。

「……ダイヤ、大きいね」

紬は一瞬、何のことかわからず――そして噴き出しそうになる。

「ちょっと、そこ!? やめてよ、見すぎ。なんか……ごめん」

指輪の話だった。左手の薬指で静かに輝く結婚指輪。
隼人が選んでくれたそれは、華美すぎず、それでも存在感のあるもので――改めて見られると、確かに照れくさい。

「佐藤にも出世してもらわなきゃなぁ……あれぐらいのダイヤ、ぽーんと買ってもらえるように」

茜は肩をすくめておどけてみせる。
その口調は軽いのに、目元の笑みは優しい。

「ねえ、結婚式ってやるの?」

「まだわかんない。あんまり派手にはしないと思うけど……」

「ふーん……でもさ」

茜は、コピー機の音に混じるように呟いた。

「紬のウェディングドレス姿なんて見たら、うちの社員みんな昇天しちゃうかも。美しすぎて」

「なにそれ」
紬は吹き出して、資料を抱えながら笑う。

「じゃあ、仕事ちゃんと回るように先に言っといてよ。うちの部署壊滅しないように」

「えー、それは本人が言うセリフじゃないでしょ」
茜も肩を揺らして笑った。

オフィスはいつも通りに、電話が鳴り、書類が積まれ、社員が忙しなく動く。
だけどその合間に、ふいに見られる薬指。
からかわれながらも、言葉の端々に込められる祝福の温度が、じんわりと胸に染み込む。

それでも、紬は変わらず、机に戻って一枚一枚、目の前の書類に目を通す。
「結婚したからって浮かれてるとは言わせない」――その心意気で、今日も変わらずに職務に向き合うのだった。
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