【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
「じゃがいも、洗っといてくれる?」

「了解」

エプロン姿の隼人が、無言でキッチンに並び立つのも、すっかり見慣れた光景になってきた。
以前はどこか他人行儀だったこの空間が、今ではふたりの暮らしの一部になっている。

食器の音が優しく響き、湯気の立つ鍋からは、ほくほくと優しい香りが漂ってくる。

「隼人、味見して」

差し出した木のスプーンに、彼は静かに唇を寄せる。
ひと呼吸おいてから、うっすらと微笑んだ。

「……うまい」

「ほんと? お世辞じゃなく?」

「お世辞を言う性格に見えるか?」

「たしかに」

思わずくすりと笑いながら、彼のエプロンの腰紐をふざけて引っ張ってみる。
すると、隼人が片眉を上げ、軽く紬の額にキスを落とした。

「そういうことすると、後で責任とってもらうぞ」

「はいはい、夫婦ですから」

照れ隠しのように、ちゃちゃを入れてその場を離れようとしたが、隼人はその手を取って引き寄せた。

「……ほんとに、夫婦なんだな、俺たち」

呟くように言うその声が、少しだけ掠れていた。
普段の彼からは想像できない、柔らかな感情が滲んでいる。

「うん。まだちょっと、不思議な感じするけど……でも、うれしい」

指先が触れ合い、互いの温度を確かめるように絡む。
夕暮れのキッチン。
窓の外では、鳥が最後の鳴き声を交わしていた。

「……今日、なんでもない一日だったけど、たぶん、ずっとこういう日が続いたらいいなって思う」

「俺も。こうして、料理して、一緒に食べて、眠って……それだけで、十分」

紬は、そう言ってくれる彼の横顔をそっと見つめた。
孤高の弁護士と呼ばれた人が、自分のために鍋をかき混ぜている。
それは、どんな宝石よりも愛おしい光景だった。

「そろそろ盛り付けようか」

「そうだな」

静かに、でも確かな幸福が、テーブルの上に運ばれていく。
甘すぎない、でも確かに甘い──そんな夫婦の夜が、またひとつ、日常に溶けていく。
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