未亡人ママはスパダリ義兄の本気の愛に気付かない
「翔ちゃん。パパに『行ってきます』の挨拶しようね。」
「うん。」
和室の片隅に置かれた小さな仏壇の前に、椿は翔真と並んで正座した。
鈴を二回鳴らし、二人は静かに手を合わせながら声を揃えた。
「パパ。行ってきます。」
仏壇には位牌が置かれ、故人を偲ぶ戒名が金色の文字で刻まれている。
仏壇の前にはコスモスとかすみ草の花、そして故人が好きだった銀紙で包まれたチョコレートが供えられていた。
あの人は虫歯になるのが心配になるほど、甘いものが好きだったな・・・
椿は小さな写真立ての中に入った、今は亡き夫である久我山信の笑顔の写真を見つめた。
いつも家族を一番に考えてくれた優しい信のことを、亡くなってから2年経った今でも夢に見る。
夢を見た翌朝は、必ず椿の頬が濡れている。
翔真にも信のことをずっと覚えていて欲しい。
だから毎朝こうして、翔真と二人で信に挨拶する。