うちの訳アリ男子たちがすみません!
 ふふふん、ふふふん

 鼻歌を歌いながら近くの河川敷をトイと歩く。

 空は曇ってるけど、私の気分はあさひなちゃんのおかげで晴れあがってる!

 明日が楽しみだなあ。もしかしたら、もしかしたら、本人に会えちゃうかもしれないし⁉

 さくらちゃん、なんて呼ばれちゃったら、どうしよ~~!

 なんて妄想をしながらスキップする。

 ぽつ、ぽつ

 ふいに肩に冷たい何かが落ちた感覚。

 トイのリードにどこからか降ってきた水がしみわたっていくのを見て、ハッと顔を上げた。

 もしかして、雨⁉ 降ってきちゃった⁉

 そういえば、朝の天気予報で、午後はどしゃ降りって言ってたような、言ってなかったような。

 それはともかく、濡れちゃうよ!

「トイ、急いで帰るよ!」

「わんっ」

 トイは吠えるやいなや、全速力で駆けだした!

 右手でつかんだリードがくいっと引っ張られる。

 うわああああっ、トイ、速いよ!

 はあはあ、と息を吐きながら、トイのおかげであっという間に家の前についた。

 ……だけど、そこには先客がいる。

「え? 誰?」

 トイを抱き上げながら首をかしげた。

 目の前で群がる影は、一、二、三……五人だ。

 雨に濡れるのも構わず、なんだか騒いでいる。


「……ここらへんじゃなかったのか?」

「私のブレインによると、この方角だったんですけどね」

「俺っち、なんでもいいからお腹すいたー!」

「僕はぁ、早く寝たぁーい」

「うーん、もっと詳しく聞いておくべきだったね。地図機能がうまく反応しないな」


 背の高い男子がスマホを右に左に傾けている。

 道に迷ってるのかな? ……二人くらい関係のない話に聞こえたけど。

「わん、わんっ」

 突然、トイが腕の中で大きく叫んだ。

 ぶるぶるっと体を振ると、私の腕から抜け出してそのまままっすぐ駆け出して行っちゃった⁉

 その勢いに、するっとリードが私の手をすり抜けていく。

 ま、まずい! 謎の男子のところに行っちゃう!

「ん? なんだ?」

 髪の毛をツンツンとがらせている男子がトイに気づいた。

 フードをかぶっている子がその場にしゃがんで姿勢を低くすると、トイはその顔をベロッと舐めた。

「うわあ、かっわいい。俺っち、この子飼いたい!」

「首輪があるね。いったい誰の……?」

 トイのリードを目線で追った、背の高い男子がこっちを見た。

 バチッと目が合う。

 周りの男子たちもそれぞれこっちを振り向く。

 ひえっ。

 視線が一気に集まって思わず後ずさりした時、背の高い男子があっと声を上げた。


「もしかして、君、さくらちゃん?」


 私のこと、知ってるの……?

 なぜか、男子は私の名前を呼ぶとにこっとほほ笑んだ。

「場所、あってたみたいだね」
< 2 / 105 >

この作品をシェア

pagetop